『孫への伝言』編集部の藤城 徹です。

今回の「昭和史コラム」で取り上げますのは「ルバシカ」。 これはロシアの民族衣装であり現地語で「シャツ」という意味を持ちます。このゆったりとした長袖のシャツは元はウクライナ農民の衣装でしたが、ロシアにも伝播し、更に軍服としても用いられながら定着していきました。「民族衣装」としては比較的新しい部類と言えるのかも知れません。

トルストイが好んでこれを着た事で知られており、特にポケットを多く付けた仕様のものが「トルトフカ」と呼ばれたという話もありますが、この顰に倣ってかソ連の知識層や芸術家の多くが好んで着用しました。日本にも戦前から普及しており、大人のみならず子供用のルバシカが誂られ、広く普及しました。その中でルバシカはベレー帽と共に芸術家のアイコンとしての地位を形成していくことになります。

ルバシカを着る芸術家として、個人的に想起させられるのは「サザエさん」の隣人である「浜さん」でしょうか。浜家は現在の隣人である伊佐坂家の前に住んでいた一家です。「浜さん」の職業は洋画家であり、彼がルバシカを着用していました。また、お笑い番組のコントなどでも画家役のコメディアンなどが着ているのを見た記憶があります。

しかし、その中で一つの事件が起こります。昭和46年(1971)に発生した連続殺人事件です。これは八人もの女性が殺害されたいう非常に痛ましい事件ですが、犯人は女性に言葉巧みに声をかけて近づく際、ルバシカを着用して自分は画家であると称して信じさせたと言います。この事件は広く報じられる中で、ルバシカのイメージが悪化すると共に、またアイコンとしても陳腐化していくようになっていきました。

結果、現在ではルバシカを着る人はかなり少なくなってしまっており、若い世代などでは存在すら知らない方もおられます。私はいずれ、ゆったりとしたルバシカを手に入れて部屋着として用いたいと考えています。